サポート範囲の問題

パソコントラブル出張修理・サポート日記」で時々出てくる話題だが、"「つながらない」で、とりあえずやってみるべきところ。" というエントリにまた出てきたのでちょっと思うところを...。
エントリではインターネット接続ができなくなったお客さんが回線業者 (eo光) のエンジニアに来てもらったけど、「回線には問題ありません」という事で対応を終了され、最終的にはブロードバンド無線ルーターの電源を入れなおして回避した、というケースで、eo光側でなぜルーターの再起動くらい提案できないのかという点と、大手のコールセンターだと「一手に引き受け一手に解決」の力量はあるはずなのに必ずたらい回しになっちゃうという点について書かれている。
自分もテクニカル サポートを生業とする者なので、この辺りの事情は推察できる。
まず前者だが、エントリにも書かれているように「責任範囲」という事が大きいだろう。回線業者の提供サービスは回線そのものだから、それに異常が無ければ本来何もする事は無いし、それ以上何かするのはビジネスではない。確かに善意で提案する事くらい容易だろうが、すべてのカスタマーがそれを「善意の提案」とは受取っていただける訳ではない。
善意ではなくそれも当然のサービス内容と考えるカスタマーは次回もそうしたサービスの提供を求めるだろう。その時「ルーターの再起動」程度の簡単に提案できるような内容が無い (見るからにもっと深刻なトラブルと思われる) 場合、エンジニアは対応に苦慮する事になる。それならまだ良いが、ルーターのように常時通電の機器は (特に動作が怪しい場合) 一度電源を切ると二度と復帰できなくなる場合もある。カスタマーから見ればエンジニアの「指示」に従って電源を切ったらルーターが「壊れた」と思えるかもしれない。そうなると「対応に苦慮」どころで無く、下手すれば補償の問題になってしまう。
そう考えると「責任範囲」以外には手を出さない口も出さない、という方針になるのはやむを得ないだろう。
次に後者は「大手だからこそ」ではなかろうか。大手のプロバイダーやベンダーのサポート センターであれば、コンシューマ向けのサポートからエンタープライズ向けのサポートまで幅広いメニューがあり、それこそ「どんな問題にも対応」できるだろう (解決できるかどうかは別にして...) 。
ただしそれはセンター全体の能力が、という事であって、個々のエンジニアの能力がエントリの筆者である笹本さんや世間の多くの小規模サポート業者より優れている、という意味ではない。特に大規模になればなるほど専門分野ごとの体制になるのが一般的なので、ベテランのエンジニアでも専門分野以外のスキルは必ずしも高くない場合が少なくない。
つまり大規模なサポート センターでは問題を訴えるカスタマーを、どれだけ適切に問題に該当する専門チームに誘導できるかが非常に重要な課題なのだ。ところが少なくないカスタマーが自分の抱える問題を適切に説明できず (それはそれで仕方ない事なのかもしれないが)、結果としてあまり適切できない部署に誘導されてしまう。あるいはカスタマー自身が適切でない窓口を積極的に選択してしまう場合も多い。最悪そもそも相談する会社が違っている (Adobe 製品の問題を Microsoft に問い合わせる、みたいな) 事だってあるだろう。
そうなると、結果として適切なチームにたどり着くまで「たらい回し」になるのは致し方ない事となる。
もちろんカスタマーの訴えを聞いて問題を識別し、適切なチームに誘導できる一時窓口があれば理想的だが、そんな業務が適切にこなせるのは、そのセンターで扱う全製品、全サービスに精通し、かつその全てにある程度の技術的スキルを持ってるようなエンジニアだけなので、普通はもったいなくて一時窓口などには回せない (し、そもそもそんなエンジニアがコンシューマ サポートの受付担当を希望する事もあまりない) 。
カスタマーからコストに見合う料金を徴収できるのならともかく、製品やサービスに付属する無償のサポートではコストは大きい。どのセンターでもコストをかけずカスタマーが適切な窓口に誘導されるような仕込みを色々と作っているが、トラブルに遭遇すると何も見ず何も調べず何も確認せず電話をしてくるカスタマーには無力だ。
何だかどんな軽い病気や怪我でも大病院に直接駆け込む人が多くて「家庭医」が普及しないのと似ているが、笹本さんも書いている「パソコンに関していろんなところを総合的にお世話する窓口(コンシェルジュ)」というのは理解されにくいのかもしれない。窓口 (初診) でもお金はいただく、でもここでは解決できないのでベンダー サポートへ誘導する (大病院へ紹介状を書く) という業態は特にコンシューマ向けの場合、難しそうだ。